税務調査とそのこぼれ話

税務調査とそのこぼれ話【業種編】(19)

今回は、「書店業」です。
日本人の本好きは昔から有名な話ですが、最近は景気が余り良くないのでむしろ中古本の販売が伸びているようです。Book―offというチェーン店はどこでも見かけるようになりましたし、駅前で最近出版されたコミックが100円くらいで並んでいたりで、昔の骨董屋のイメージとは少し雰囲気が変わってきています。中古といってもほとんど新品と変わらず、仕入値段は格段に安いため、品揃えさえしっかりできればむしろ利益率は良いのではないでしょうか。ただ、新本、中古本を問わず悩みの種は万引きだそうです。これらを監視するために人を増やしたり、監視カメラを設置したりしています。また、過剰に在庫を抱えますと資金面で問題が出て、いわゆる黒字倒産の危険性があります。
さて、ではこのような書店業はどのようにして調査するのでしょうか。
まず、大量に本を仕入れますが正常に売れていれば店全体とすれば粗利益率はほぼ一定率(専門書とか雑誌、コミック等個別には多少変わります)を保っているはずです。そこで粗利益率の異常に落ちている期間を綿密に調査します。万引きが多かったとかの話も、よく調べてみればその後辞めた従業員が商品を横流ししていたケースとか、売上金を着服していたケースは良くあります。また雑誌社へ返品したことにしてその売上金を抜いていたケースもあります。いずれにしても売上の決済が現金のケースがほとんどなので、不正が入り込む余地は十分あります。
次ぎに年度末の在庫確認も大きなファクターです。少し大きな書店では、数千万円にのぼることも珍しくありませんので、在庫の数量を(さすがに仕入単価まで改ざんしているケースは希ですが)圧縮して利益を少なくしているケースは多くみられます。
更に、従業員もアルバイトが多いので、来なくなったアルバイトも出勤したことにして人件費の水増しをしているケース、全く実在しない氏名で領収書を作成し現金で払ったことにする架空人件費のケース、実の子供に小遣いを渡しこれを働いたことにするケース等が目立ちます。これらは全て架空人件費とみなされ、重加算税対象になります。本税の他35%の加算税が併科されます。
今は、大きな書店はコンピュータでデータ管理され、売上と仕入は大丈夫と考えている経営者が多いのですが、それを扱っているのは人間であり、決済が現金である以上、不正が生まれるのです。また、先程の在庫とか人件費のケースは経営者及び上級管理者の不正、重過失に基づくものがほとんどであり、このようなケースはコンピュータは全く無力です。
実際の商品の流れ、金銭預金の流れ、人の流れから総合的にこのような不正の可能性をひとつひとつ解明していく作業になります。
このようにして抜いてお金は、例によって仮名定期預金、不動産、債券・株式、貴金属に換金される他、先金は海外で外貨預金、外貨債券、不動産、高級ホテルの専用使用権(1年の内1~2週間世界のそのチェーンホテルを使用する権利)に化けているようです。

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