税務調査とそのこぼれ話

税務調査とそのこぼれ話【業種編】(11)

今回は、「理容業」です。
いわゆる「散髪屋」さんです。以前に比べればお店の数も客数も減少していますが、各商店街には必ずありますし、値段は3500円~4000円位で安定しています。また、何より収入の源泉は個々人の技術料であり、原価はほとんどかかりません。従って、一定の客数さえ確保できれば比較的安定した経営が可能です。ただ最近は、10分で1000円というスピードカットの店も増えてきており、従来の1時間位掛けて丁寧に仕上げる店と二極化しているように思えます。では、このような「理容業」はどのように調査するのでしょうか。
まず、前回の「美容業」と同様、現金商売ですので現金の管理のチェックが重要であり、簿外の現金・預金を把握するのが最も有効な方法です。そこで、調査日現在のレジペーパーの合計と現金残高との照合、昨日の現金の保管状況をチェックします。具体的には、店の金庫、経理等の机の中、銀行の貸金庫、経理担当、経営者の鞄等をチェックし、簿外の現金・預金、証券、貸金庫の鍵、簿外銀行と思われる印鑑等の発見に努めます。あくまで任意調査ですから、世間話でもしながら上手く望むものを見せてもらうテクニックが要求されるわけです。
次ぎに売上を推定する「数量計算」を行います。かなり以前ですと「カラー」という必ず客の首に巻いてシャツの汚れを防ぐ紙で行っていました。必ず使うものですからこの紙の消費量に単価を掛ければ予想売上額は容易に想像できたわけです。ただ今はそのようなものがないので、難しい状況です。パーマが多い店ですと、美容でも説明しましたがコールド液で推定できます。
したがって、P/L面からは人件費や消耗品等の経費のチェックくらいになります。重点は簿外預金等の資産面の脱漏把握に向かいます。
10年以上前に私が経験したことですが、ある商店街のなかにある小綺麗な散髪屋さんを調査したことがありました。当初はそれなりの水準の申告をしているし、調査時の現金残高も合っていて比較的キチンとしていると思っていました。ただ、あまりにもミスがない、計算され尽くしたかのような状況に、幾分か不自然さを感じていました。念のため銀行で入出金を追いました。主人はかなりきまじめで、2~3日に一回は入金をしていました。それを入金伝票で追っていた時、私の手が止まりました。毎回その日に入金している伝票の中から筆跡の似ている伝票が出てきて、その名前の姓が奥さんの旧姓だったからです。その印鑑票を取り、データを打ち出すと4名分合計で5000万円以上ありました。銀行の担当者を呼び、また本人に追求すると、仮名預金(借名預金)であることを認めました。銀行の担当者が集金に来て、本名の預金とは別に預金していたもので、その分だけ売上を除外し、経費も全てそれに合わせていたのです。私が妙にきれいな数字だと感じた理由がこれで解明されました。そのように作っていたのですから。70%近くが税金で消えましたが、ご主人はさばさばした様子でした。「これでこそこそする必要がなくなった。こらから頑張ります」と言っていました。その後、法人化し順調に業績を伸ばしたそうです。

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