税務調査とそのこぼれ話

税務調査とそのこぼれ話(9)

今日は、「推計計算」(B/S面)についてお話します。
所得金額の「推計計算」は、一般的には前回お話ししたP/L面を中心に行われますが、十分な資料がないケースとか、P/L面をチェックするためにB/S面の検討も同時に行われます。
ただ、B/Sは各期末の財政状態を表す財務諸表のため、そのままでは期間損益たる所得金額の「推計計算」には使えません。そこで具体的には、資金運用表を使うことになります。資金運用表とは、前期と当期のB/Sの各項目を比較し、その増減額を一覧表示にしたものです。
例えば、売上が100万円で、その回収資金は当座預金で保存されているとします。そして、当期の取引がこの取引だけだったとしましょう。その結果、資金運用表には当座預金が+100万円、利益剰余金(当期利益)+100万円と表示されます。つまり、当期利益100万円が正しいかどうかは、当座預金が100万円増えているかどうかでチェックできるわけです。
利益が生じた場合、それは必ず資産の増加か負債の減少に反映します。したがって、資産、負債の増減を全て把握し、資金運用表に反映していけば逆に当期利益の妥当性を判断できるということになります。ただ、重要な項目というものは自ずと決まってくるわけで、一般には預金、売掛金、貸付金、棚卸資産、固定資産、買掛金、借入金等が重点的に調べられます。
例えば、預金、貸付金の例として、ある社長が売上の一部を除外し、その金で仮名預金をし、金のブレスレットを買い、愛人のためにマンションを買い、銀座で豪遊していたとします。この時、仮名預金は預金の増として、金のブレスレットは社長への貸付金として、愛人のためにマンションも社長への貸付金として、銀座での豪遊も貸付金として資金運用表に加算され、課税所得の対象とされます。なお、金のブレスレットと愛人のマンション及び銀座での豪遊については、実際の課税処理上、貸付金ではなく社長への認定賞与(法人は損金不算入で個人は源泉課税)となることもありますが、いずれにしても処分できる資産が増えているということで課税所得の増ということになります。
個人経営の経営者さんの中には、「今年は娘の結婚式で300万円も物入りだった」とか、「家の修理に500万円費やした」と話されるケースがありますが、これらの費用は経費になるはずがなく、事業の資金と個人としての資金が混在している状況ですと、上記の資金運用表の貸付金(個人のケースは事業主貸勘定)の欄に集計され課税の対象になります。
彼らは、現金預金が減少すれば「儲かっていない」という感覚で経営をしています。したがって、負債が減っていても「それは利益の上がっている証拠」という感覚があまりありません。キャシュフロー経営は重要なことですが、正確な利益概念を持つことも重要です。
皆さんも、個々に資金運用表を作ってみられると、どのように利益を処分しているか分かりますよ。

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